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サイバー攻撃時の取引先連絡|受注停止・納期遅延の文例と公表手順

サイバー攻撃時の取引先連絡と受注停止・納期遅延の文例を示すアイキャッチ

サイバー攻撃で受注や出荷が止まったとき、取引先には原因の確定を待たず、確認できた業務影響、注文の扱い、連絡窓口、次の更新時刻を伝えます。復旧日や情報漏えいの有無が未確定なら、推測せず「調査中」と明記します。本記事はアサヒグループの公表事例と公的資料を参考に、発覚当日の初報、停止中の続報、漏えいの疑いがある場合の案内、再開通知を文例付きで整理します。文例はそのまま送るための完成文ではありません。影響範囲、受付方法、法令上の通知要否を社内で確かめてから使ってください。

目次

サイバー攻撃時の連絡を始める前に決めること

サイバー攻撃時の取引先連絡前に確認する影響範囲・窓口・発信責任者・更新時刻

サイバー攻撃で受発注システムが止まったとき、取引先への連絡は「原因がすべて分かってから」では遅くなります。一方、確認できていない情報を急いで断定すると、後で訂正が必要になり、発注や配送の判断をさらに難しくします。最初に決めるべきことは、完璧な説明文ではありません。誰が事実を集め、誰が対外表現を承認し、どの相手に、どの経路で、いつ次の情報を出すかです。

この章は、公開されたアサヒグループの事例を材料に、一般企業が使える連絡設計を示します。2025年9月29日のアサヒグループホールディングスの初報は、サイバー攻撃によるシステム障害で、日本国内のグループ会社の受注・出荷業務とコールセンター業務が停止し、復旧時期は見通せないと公表しました。10月3日の第2報では、ランサムウェア攻撃の確認、障害システムの遮断、社外からのメールを受信できない状況、手作業による一部受注と順次出荷の開始などを追加で説明しています。初報と第2報で分かった情報は異なります。以下の役割分担や文例は同社の内部運用を推定したものではなく、自社向けに設計するための提案です。

連絡の目的を「安心させること」だけにしない

障害時の取引先が知りたいのは、攻撃の技術的な名前だけではありません。「すでに出した注文は受け付けられているか」「明日納品されるか」「通常の窓口へ連絡してよいか」「再送すると二重発注にならないか」という、次の行動に直結する情報です。おわびは必要ですが、おわびだけでは相手の判断材料になりません。一次連絡は、受発注・出荷・問い合わせという業務単位で、今できることとできないことを示します。

連絡の成功条件も先に置きます。重要取引先が連絡を受け取り、注文の再送を控えるべきか判断でき、担当者へ問い合わせる経路が分かり、次回更新の時刻を把握している状態です。「送信した件数」だけでは成功を測れません。受信できていない相手、誤った宛先、迷惑メール扱い、担当者不在も考えられます。高影響の取引先には送信後の到達確認まで担当を割り当てます。

確認済み・未確認・次回更新を分ける

文面の中核は三つの欄です。第一に「確認済み」。障害を確認した時刻、停止した業務、通常の注文経路が使えるか、すでに確定した出荷の扱いなど、現場とシステム担当が照合した情報だけを書きます。第二に「未確認」。原因、漏えいの有無、復旧時期、すべての注文への影響など、調査中のものを明示します。第三に「次回更新」。何時までに、どのページや窓口から、何を更新するかを具体的にします。更新時刻までに新しい事実が分からなくても、「変化なし」と「次の更新予定」を発信します。

「情報漏えいはありません」「明日復旧します」という言葉は、根拠を持てない段階では使いません。アサヒグループの初報には、その時点では個人情報や顧客データの外部流出が確認されていないとの記述がありました。一方、10月3日の第2報では、情報漏えいの可能性を示す痕跡を確認し、内容と範囲を調査中と説明しています。これは調査が進んで認識が更新されることを示します。自社の文面でも「現時点で確認できていません」と「存在しません」を区別してください。どの時点・どの調査範囲の判断かが分かる書き方にします。

復旧見込みも同じです。IT担当がシステムにログインできたことと、受注から出荷、請求まで安全に再開できることは別です。原因調査、隔離、データの整合性確認、外部連携の試験が残る場合は、確定した納期を約束できません。「予定は未定」とだけ書くのでなく、判断のために確認している範囲と、次に見通しを知らせる時刻を示します。相手が代替調達や販売計画を立てられるようにするためです。

対外発信の役割を四つに分ける

小規模な会社でも、「事実確認」「業務判断」「文面承認」「送信・記録」を分けます。一人が複数役を兼ねても構いませんが、判断の根拠と責任者は明確にします。事実確認はIT担当と受発注・物流現場が行い、停止したシステム、受け付け済み注文、代替経路の可用性を記録します。業務判断は営業・物流・経営責任者が行い、どの顧客へ優先連絡し、どの注文を保留または手作業で扱うかを決めます。文面承認は対外責任者と、必要に応じて法務・個人情報担当が担います。送信・記録は顧客窓口が行い、いつ誰へ何を伝え、相手がどう返答したかを台帳に残します。

決裁を集めようとして発信が止まることもあります。そこで平時から「停止した業務と次回更新時刻だけを伝える一次文面」は誰が承認できるか決めておきます。漏えいの断定、補償、契約変更、確定納期、金銭の支払いに関する表現は、別の承認段階にします。経営者が不在でも一次連絡を出せる経路と、判断が必要な事項を保留する経路の両方が必要です。

役割 入力情報 成果物 完了条件
事実確認 監視情報、現場の障害報告、注文台帳 確認済み・未確認の一覧と時刻 異なる部署の情報が矛盾していない
業務判断 停止範囲、未処理注文、在庫と配送の状態 受付停止・暫定受付・優先連絡先の方針 顧客が次に取る行動を説明できる
文面承認 事実一覧、契約・法務上の留意点 版番号付きの一次連絡文 断定、過剰な約束、未確認情報がない
送信・記録 承認文面、連絡先台帳 送信記録、到達確認、問い合わせ記録 重要先の未達が把握できている

この表は汎用の運用例です。事故の規模、契約上の通知義務、個人情報の扱い、金融・医療などの業種別規制によって必要な連絡や期限は異なります。法的義務を判断する表として使わず、自社の法務担当や専門家が適用条件を確認してください。文面に「通知したので責任を免れる」といった意味を持たせないことも重要です。

相手ごとに伝える内容と経路を変える

同じ障害でも、卸先、仕入先、物流会社、一般顧客、社内の営業担当では必要な情報が違います。卸先には既存注文と納品予定への影響、代替調達が必要か、注文再送の可否が重要です。仕入先には発注・受領・支払いのどこが止まっているかを伝えます。物流会社には出荷指示の真正性、再送指示の重複、引き渡し可能な商品範囲を示します。一般顧客には注文受付・問い合わせ窓口・配送の状況を平易に説明します。社内担当には対外文面の最新版と、個別回答してよい範囲を渡します。

経路も一つに依存しません。攻撃の影響でメールが送受信できないなら、そのメールを唯一の連絡手段にしないことです。アサヒグループの第2報は社外からのメールを受信できない状況を公表しました。自社でもメールの利用可否をIT担当が確認し、使えない場合は、事前登録済みの電話番号、独立して管理された公式サイトのお知らせ、契約で認められた別の連絡経路を使います。ただし代替手段が侵害されていないかも確認します。個人の私用アカウントに取引データを送るなど、緊急時だからと情報管理を放棄してはいけません。

相手 最優先の質問 連絡経路の例 到達確認
納期影響が大きい取引先 注文は有効か、いつ届くか 登録済み電話番号への架電と公式文面 担当者名・確認時刻を記録
物流・倉庫 どの出荷指示を正本とするか 事前に合意した緊急連絡先 注文番号単位で照合
一般顧客 注文・問い合わせは可能か 公式サイトの障害情報、利用可能な窓口 ページ掲載と窓口の稼働を確認
社内営業・CS 何を答えてよいか 安全が確認された社内経路 最新版の版番号を共有

連絡先台帳は事故が起きてから探し始めると遅れます。取引先名、主担当と代替担当、通常連絡先、緊急連絡先、契約上の通知方法、受注・出荷・請求の担当部門を定期的に確認します。取引先が退職した担当者の携帯電話しか登録していないケースや、拠点ごとに異なる連絡先を持つケースもあります。台帳の更新責任者を決め、年に一度だけでなく大きな組織変更や契約変更の後にも点検します。

連絡対象の優先順位は「売上順」だけで決めない

連絡対象が多いときは、売上の大きさだけでなく、停止の影響を基準に並べます。納品遅延が人の安全や社会インフラに影響する相手、代替調達に時間がかかる相手、翌朝の出荷判断が必要な相手、注文が重複しやすい相手を先に扱います。経営責任者と現場責任者が優先順位を合意し、例外を記録してください。営業担当が個別に「いつも大事なお客さまだから」と判断すると、本当に時間制約のある相手への連絡が遅れることがあります。

例えば架空の部品メーカーなら、医療機器の修理用部品を納める顧客、当日夜に倉庫へ出荷指示が必要な顧客、翌週の補充在庫だけを予定する顧客を同列に扱いません。最初の二者へ電話で影響と次の確認時刻を伝え、三者へは公式文面を送って個別の問い合わせを受ける形が考えられます。これはアサヒグループの優先順位ではなく、一般企業が自社の契約と影響度に合わせて決めるための例です。

「答えられない」を統一して答える準備をする

事故直後は、取引先から「攻撃者は誰か」「個人情報は漏れたか」「いつ復旧するか」「損害を補償するか」と尋ねられます。担当者によって異なる答えをすると、訂正の負担と不信が増えます。未確定の質問については、調査中という事実、現在の責任者、次の更新時刻、個別相談の窓口をセットで答えます。「回答できません」だけで切らず、「現在どの点が未確認か」を示します。ただし調査を妨げる詳細や、未確認の技術情報を開示しない判断も必要です。

対外連絡のFAQを一枚作り、版番号、承認者、発効時刻を付けます。例えば「注文は再送すべきか」への回答を「現在は再送しないでください。受信済みか確認中です。○時までに注文番号ごとの扱いを案内します」とするなら、受発注担当が実際に照合できる体制と一致させます。照合できないのにこの文面を出してはいけません。FAQは文章の上手さより、現場の運用と同じ答えになっていることが重要です。

発覚当日の一次連絡:受注停止・納期未定をどう伝えるか

発覚当日の一次連絡に含める業務影響・代替受付・未確定事項・次回更新

一次連絡は、原因の完全な説明ではなく、取引先が誤った行動をしないための最低限の案内です。発覚当日に確定できない事項が多くても、停止した業務、現時点の注文の扱い、使える窓口、次回更新を伝えます。「復旧の見込みがない」と「何も知らせられない」は同じではありません。状況の変化を追って伝える枠を最初に作ることが、後日の訂正や問い合わせ集中を減らします。

アサヒグループの初報も、発生した障害、停止した業務、復旧時期の見通しがないことを分けて公表しました。ただし、同社がどの取引先へどの順番で連絡したか、どの社内承認を経たかは公開資料からは分かりません。以下は同社の内部連絡を再現するものではなく、受発注が止まった一般企業のための文例と手順です。自社で使う前に停止範囲、契約、事実確認時刻、代替窓口を差し替えてください。

一次連絡に入れる七つの要素

第一に件名です。受信者が一目で障害と対象業務を判別できるよう、「【重要】受注・出荷業務の一時停止について(更新時刻:○月○日○時)」など、要件と更新時刻を入れます。第二に発信者と発信日時。担当者の個人名だけでなく、会社・部署・責任者を示します。第三に現在確認済みの影響。対象の受注経路、出荷、問い合わせ窓口を具体的に書きます。第四に注文の扱い。すでに送った注文を再送するか、しないか、番号照合が必要かを明記します。

第五に未確認事項。復旧時期、個々の納期、個人情報への影響など、未確認なら未確認と書きます。第六に相手にお願いする行動。誤った経路での再送を止める、急ぎの案件だけ代替窓口へ連絡する、注文番号を控えるなど、自社が実際に受けられる範囲に絞ります。第七に次回更新の時刻と場所です。時刻だけでなく、公式ページ、登録済み窓口、取引先専用窓口など、確実に使える経路を指定します。広い範囲に知らせる文面でも、読み手が最初に知りたいのは「今の注文をどうするか」です。技術的背景や長い謝罪文より前に置きます。

なお、「サイバー攻撃による」と書けるのは、その判断が社内で確認・承認されている場合です。障害の原因が未確定なら「システム障害」と記し、原因調査中と分けます。後で攻撃と判明したら版を更新します。逆に、攻撃と確認されているのに単なる設備故障のように記すと誤解を招きます。事実確認の時刻と承認者を残し、文面と実態のずれを減らします。

そのまま差し替えられる一次連絡メールの文例

次の文面は架空企業向けの雛形です。角括弧の項目は必ず自社の確認済みの情報に置き換えてください。未確認の事項は空欄のまま送らず、「確認中」と書きます。代替の電話番号やURLは、侵害を受けていない管理経路で確認し、本文内に書くときも既存契約や公式サイトと整合させます。取引先の全担当者へ一斉配信する前に、営業・物流・IT・対外責任者が同じ内容を確認します。

件名:【重要】[受注・出荷]業務の一時停止について([月日・時刻]現在)

[取引先名・ご担当者名] 様

平素よりお世話になっております。[会社名・部署名]です。[月日・時刻]頃から[対象システムまたは業務]に障害が発生し、現在、[対象となる受注経路・出荷業務]を停止しています。ご不便をおかけし、申し訳ございません。

現時点で確認できている影響は、[確認済みの範囲]です。[送信済み注文の受付状況]は[確認済みの扱い/確認中]です。重複処理を避けるため、[再送しない/事前に電話確認するなど、実際の運用に合う指示]をお願いいたします。

[個別の納期・復旧予定・情報への影響]は現在調査中です。確定していない事項について、現時点でお約束はできません。至急の案件は、[確認済みの代替窓口]へ、[注文番号と希望納品日など必要最小限の情報]をお伝えください。

次回は[月日・時刻]までに、[公式サイトの専用ページ/登録済みの連絡経路]で状況を更新します。新たに確認できた事実があれば、予定時刻を待たずにご案内します。

[会社名・責任部署・確認済み連絡先]
[発信日時・文書版番号]

この文例は「受注と出荷が実際に止まっている」場合を想定しています。受注は可能だが出荷のみ止まるなら、件名も本文も修正します。代替受付をまだ設けていないなら、存在しない窓口を書いてはいけません。顧客へ再送を止めてもらう場合も、自社が既存注文を識別できるか確認します。相手が緊急に注文を伝える必要がある業界では、一律の「再送禁止」がかえって危険なことがあります。注文番号照会や電話確認など、実行できる方法を明示します。

「受信したはず」と「受注した」は違う

メール、EDI、ECからの注文がシステム障害と重なると、相手側には送信済みの記録があっても、自社側の注文登録や在庫引当は完了していない場合があります。逆に受信はできていて、その後の出荷指示だけ止まっている場合もあります。一次連絡では、「注文メールを送った方はすべて再送してください」と一律に書かないでください。二重受注を生みます。「注文番号があるか」「自動返信を受け取ったか」「担当者による確定連絡があったか」を区別し、どの状態を正式受注とみなすかを受発注責任者が決めます。

暫定的な照合台帳には、取引先名、相手の発注番号、自社の注文番号、送信時刻、受信確認の有無、商品と数量、希望納品日、現在の状態、最終確認者、次の連絡時刻を記録します。取引先からの問い合わせ時は、この台帳のキーで追います。システム復旧後にメールやEDIの未処理キューが流れたときも、台帳と突き合わせて二重処理を止めます。事故時の台帳は、アクセスできる人、保管場所、廃棄時期を定め、取引データを私物端末に散らしません。

納期未定でも、相手に判断期限を渡す

「納期は未定です」だけでは、相手は代替調達を始めるべきか待つべきか判断できません。現時点で個別納期を確約できないなら、「本日○時までに受注状況の確認結果を連絡します」「出荷可否は明日○時に更新します」と、判断材料が出る時点を知らせます。発注先の仕入れや生産ラインに影響するなら、既存注文の影響確認を優先します。確約できない納期の代わりに、確認できる次の工程と責任者を示すのです。

例えば「通常は翌日納品だが、倉庫への出荷指示が止まっている」なら、翌日納品を維持すると約束できません。一方、注文番号単位の照合を営業が○時までに終え、倉庫の出荷可能範囲を物流が○時に更新するという予定なら示せます。工程のどちらかが遅れたら、次回更新を待たずに影響先へ連絡します。これは進捗を見せるための演出ではありません。相手が販売、製造、代替手配を行う際の期限に合わせた情報提供です。

一斉連絡後に高影響先へ電話する

一斉メールや公式サイト掲載は広い範囲へ同じ情報を伝えるのに有効ですが、重要取引先に届いた保証にはなりません。連絡優先度の高い取引先へ、台帳に登録された既存の電話番号を使って確認します。電話では、文面を読み上げるだけでなく、相手の直近の注文番号、希望納品日、相手が抱える期限を聞き取ります。ただし、取引先の担当者が電話口で新しい振込先や発注経路を指定しても、その場で運用を変えず、既存の承認フローで確認してください。事故に便乗したなりすましを防ぐためです。

電話がつながらない場合は、日時、番号、担当者、折り返し先、次の試行時刻を記録します。「連絡済み」と「送信したが未達」「電話不通」を区別します。取引先の事業部や拠点によって担当が異なる場合は、どの拠点のどの注文へ影響するのかも追います。現場の営業担当が口頭で納期を約束してしまうのを防ぐため、電話用の短いスクリプトも作ります。スクリプトには確定した事実、未確定の事実、次回更新の時刻、個別相談を受ける窓口だけを載せます。

更新が遅れるときは、時刻を再設定して知らせる

調査が進まず、予定した更新時刻に新しい事実が出ないことはあります。それでも沈黙しないでください。「○時現在、受注システムの停止が続いています。既存注文の照合は継続中です。次回は○時に更新します」のように、確認時刻と変わらない範囲を明記します。繰り返しの連絡は煩わしく感じられるかもしれませんが、約束した更新時刻を無言で過ぎるより、取引先は自社の計画を立てやすくなります。ただし、短時間に中身のない通知を大量に送るのも避け、影響度に応じた頻度を決めます。

発信する文書には版番号と時刻を付け、古い版を上書きするときは変更点を明示します。たとえば「第1報では注文受付状況を確認中としていました。第2報では、○時までに受け付けた注文のうち、注文番号が確認できたものについて個別照会を開始しました」という書き方です。訂正が必要なら、何を訂正し、取引先にどの行動を変えてほしいかを伝えます。古い案内を消すだけでは、すでに読んだ相手に更新が届きません。

発覚当日の最後に照合すべき記録

その日の対応を終える前に、障害発生時刻、確認した業務影響、初回文面の承認者、送信先、未達先、電話確認済みの取引先、受け付けた問い合わせ、未処理注文、次回更新の担当者を一つの台帳へ集約します。夜間や休日に引き継ぐなら、現在使える連絡経路と使えない経路、対外的に言ってよい事項、保留すべき事項も渡します。担当者の頭の中だけに残すと、翌朝に同じ相手へ矛盾した説明をする可能性があります。

初日の完了条件は「原因が判明した」ではありません。停止した業務が確定範囲で説明され、重要取引先の連絡状況が把握でき、未処理注文の調査担当と次回更新時刻が決まっていることです。事故対応全体は続きますが、一次連絡の仕事をこの単位で区切ると、次の公表と業務復旧へ引き継ぎやすくなります。企業ごとに必要な通知内容や期限が異なるため、個人情報や契約上の問題が判明した場合は、別途、法務・情報管理の責任者と専門家が判断してください。

停止が続く間の更新連絡:納期・代替受付・問い合わせ

停止中の続報で変更点・納期回答・代替受付・問い合わせ先を整理する図

初報を送って終わりではありません。受発注システムが止まったままなら、取引先は「発注が受け付けられたか」「いつ届くか」「どこに聞けばよいか」を毎日判断しなければなりません。復旧時期を言い当てることより、次の更新時刻、受付できる範囲、納期回答の方法を約束し、守ることが重要です。変化がない日も「前回から変更なし」と明記して更新します。沈黙が続くと、担当者が個別に推測を伝えたり、取引先が古い案内を根拠に出荷予定を組んだりするためです。

実例として、アサヒグループホールディングスは2025年10月3日の公式の第2報で、システムによる受注・出荷の停止が続いていること、部分的に手作業で受注し順次出荷を開始したこと、社外からのメールを受信できないこと、復旧時期を明らかにできないことを区別して公表しました。これは同社が公表した事実であり、以下の文例にある連絡周期や担当分担まで同社が実施したという意味ではありません。自社で使う場合は、確認できた事実だけに置き換えてください。

更新連絡で変えるべき項目と、変えない項目

更新のたびに全文を書き直すと、前回と今回の違いが読み取れません。件名に「第2報」「第3報」と発信日時を入れ、本文の冒頭に変更点を一文で置きます。例えば「代替受付の対象を国内法人の定期注文に広げました」「復旧見込みは引き続き未定です」のように書きます。後者も新しい情報ではないものの、決裁・配送を考える相手にとっては重要です。前回の文書へ静かに上書きするのではなく、版番号と発信時刻を残し、旧版へのリンクから最新版へ到達できるようにします。

一方、連絡窓口、対象会社、対象サービス、確認済みの注文件数の定義は、理由なく変えません。窓口を変更する場合は旧窓口にも転送案内を残します。システムが停止している間は、自社の通常メールやCRMも利用不能になる場合があります。使えると思い込んだ連絡手段を文面に載せず、実際に送受信・折り返しができた代替手段を担当者が試してから公開します。連絡経路が電話に集中するなら、受付時間と対象用件を絞って告知し、回線がパンクした場合の予備窓口も決めておきます。

表の項目を、営業・物流・情報システム・広報が同じ台帳で更新すると、違う版の情報が各部門から流れるのを防げます。数字や時刻を出すときは、どの時点の値かを必ず添えます。集計できていないものを「ゼロ」と書かず、「現在確認中」と表記します。

項目 更新時に答える問い 書き方の例 確認担当
障害の状態 停止・一部再開・通常化のどれか 「オンライン受注は停止。電話での一部受付を継続」 情報システム・受注責任者
受付の対象 どの注文を代替手段で受けるか 「既存契約の定期注文のみ。新規口座開設は対象外」 営業・受注責任者
納期 既存注文と新規注文をどう答えるか 「確定した出荷予定のみ個別通知。未確定分は回答日時を案内」 物流・営業
問い合わせ 取引先がどこへ何を伝えるか 「受付番号・会社名・注文日を電話でお伝えください」 顧客窓口
次回更新 いつ、どの媒体に続報を出すか 「10月○日15時までに本ページを更新」 広報・対外連絡責任者

納期の回答は「予定」「未確定」「代替案」を分ける

受注停止で最も困るのは、注文番号を確認できないまま納期だけが断定されることです。担当者が「たぶん明日出荷」と伝えた後に在庫不足が判明すると、取引先の工事や販売計画まで崩れます。受注台帳、在庫、配送枠の三つを照合できた注文だけを「確定」とし、照合できない注文は「回答待ち」とします。確定していない注文へは配送日ではなく、次の回答予定時刻を伝えます。誤った約束より、いつ再確認できるかの方が相手の判断に役立ちます。

既存注文と新規注文も分けます。障害直前に受けた注文は二重登録や処理漏れが起こり得ます。代替受付では「既存注文の照会」「変更・取消」「新規注文」の順番を明確にし、同じ注文を別経路で再送しないよう案内します。受付番号を採番できない場合は、暫定の照合キーとして「取引先コード・注文日・品番・数量・受付担当・受付時刻」を記録します。ただし、この項目をメール本文に丸ごと記載すると、相手先の発注条件などが不要に広がります。送付する情報は、相手が注文を識別するために必要な範囲に限ります。

代替品を提案するときは、価格・仕様・納入日・保証・契約条件に差が出る可能性があります。「同等品」と書く前に、営業担当と品質担当が相手の用途を確認し、承認を得ます。分割出荷に切り替える場合は、各便の数量、予定日、送料負担、残数を文書に残します。発注停止中に口頭のやり取りが増えるほど、復旧後の請求と実出荷の差異が大きくなるためです。こうした代替運用は受注・出荷停止時の手作業BCPでも詳しく整理しています。

そのまま使える「第2報・進捗更新」文例

次は汎用の文例です。角括弧内は実際の確認結果に置き換えます。復旧予定、対象範囲、代替窓口が未確認なら、値を推測して埋めずに「確認中」と書きます。送信前に、情報システムが障害状態、物流が出荷可能範囲、営業が取引先別影響、広報または責任者が表現と宛先を確認してください。

件名:【第2報・○月○日○時現在】受発注システム障害に伴う受付・納期のご案内

お取引先各位

先にご案内した受発注システムの障害について、○月○日○時現在の状況をご連絡します。ご不便をおかけしていることをおわび申し上げます。

【今回の変更点】[例:既存契約の定期注文について、電話による代替受付を開始しました。]

【現在の状況】[対象のシステム・拠点・業務]は[停止/一部再開]しています。復旧時期は[現時点で未定/確認済みの見込み]です。未確認の原因・影響範囲については調査を続けています。

【ご注文について】[対象となる注文]は[確認済みの代替窓口・受付時間]で受け付けます。[対象外の注文]は現在受け付けられません。既に別経路でお送りいただいた注文の再送は、二重登録を避けるため、当社から依頼するまでお控えください。

【納期について】確定した出荷予定は、担当者から注文単位でお伝えします。未確定の注文は[○月○日○時]を目安に回答予定時刻を改めてご連絡します。代替品・分割出荷が必要な場合は、条件を個別に確認します。

【お問い合わせ】[確認済みの電話番号・受付時間]へ、会社名、注文日、受付番号をお知らせください。[停止中のメール等]は現在利用できません。弊社を名乗る不審な請求・振込先変更の連絡には応じず、従来ご利用の窓口へ確認してください。

【次回のご案内】[○月○日○時]までに[公式サイトの専用ページURL/既存の契約連絡先]で更新します。状況に重要な変更があれば、予定時刻を待たずにお知らせします。

[会社名・対外連絡責任者・発信日時]

上の文例で「変更点なし」のときは、変更点の行を「前回ご案内から、受付方法・対象範囲・納期回答方法に変更はありません」と差し替えます。相手が更新有無をすぐ判断できます。更新予告時刻を守れない場合は、その時刻までに短い遅延連絡を出し、新しい更新時刻を示します。システムの復旧日を約束する必要はありませんが、連絡の約束は守るべきです。

よくある問い合わせへの回答を統一する

同じ質問に営業Aと営業Bが違う回答をすると、取引先は「どちらが正しいのか」と二重確認し、現場の負荷が増えます。問い合わせ窓口には、公開できる回答、個別照会が必要な回答、まだ回答できない事項を分けた短いFAQを渡します。FAQにない質問を受けたら、その場で推測せず、質問を記録して承認者に上げます。回答の更新履歴は版番号付きで管理し、電話担当が旧版を参照しないようにします。

取引先からの質問 共通回答の例 個別対応・社内確認
昨日の注文は届いていますか 「受付状況を照会します。注文日と貴社の注文番号をお知らせください」 二重登録の有無を確認してから回答
いつ出荷できますか 「確定分は個別にお知らせします。未確定分は次の回答時刻をご案内します」 在庫・物流・受注台帳の照合が必要
別の商品に変更できますか 「候補を確認し、仕様と条件を提示したうえでご承認をお願いします」 品質・価格・契約条件の確認が必要
個人情報は漏えいしましたか 「現在確認している事実と調査中の事項を、公式の最新案内でお伝えします」 法務・情報管理責任者へ即時エスカレーション

質問票の目的は問い合わせを短く切ることではありません。担当者の独断を減らし、未確定事項を組織として追跡することです。企業側では、問い合わせ件数だけでなく「納期確認」「二重発注」「代替品」「情報漏えい懸念」などの分類と、回答待ちの滞留時間を毎日見ます。同じ疑問が大量に届くなら、個別回答の前に公表文の不足を直します。たとえば「メール受信ができない」という重要情報が本文の末尾にしかないなら、連絡手段の説明を冒頭へ移動します。

復旧時の連絡も段階的に行う

システムのログイン画面が戻っただけで「全面復旧」と告げてはいけません。受注入力、在庫引当、出荷指示、配送連携、請求、注文履歴の照合がそれぞれ動くか確認し、手作業で受けた注文をどう取り込むかを決めます。アサヒグループは2026年2月18日の公式発表で、EOSによる受注の再開日と、配送リードタイムの正常化を別々に説明しています。受注の再開と物流全体の正常化は同じ日とは限らない、という実例として参考になります。

自社の復旧連絡では「システム受付再開」「代替受付の終了予定」「対象外の注文」「移行期間の二重発注防止策」「過去注文の照会方法」「納期が未確定の件数または個別通知方針」を分けます。もし手作業の注文を再入力するなら、取引先に再送を求めるか否かを明示します。請求書が二重に届く可能性があるなら、事前に照合の窓口と処理方法を示します。復旧後数日は例外が出やすいため、「通常化」と書く条件を営業・物流・経理で合わせてから発信してください。

情報漏えいの疑いを伝えるときの線引き

情報漏えいについて確認済み・疑い・調査中を分けて伝える図

受発注の停止と、個人情報の漏えいは別の問題です。システムが止まった事実から、直ちに情報が外へ出たと断定することはできません。一方で「まだ確認できていない」ことを「漏えいはない」と言い換えるのも危険です。取引先へ伝える際は、確認された事実、合理的な疑い、調査中、否定できた事項を別々に書きます。攻撃者によるデータの窃取が疑われる痕跡が見つかったら、事業影響の案内だけで済ませず、法務・個人情報保護責任者・外部専門家と連携して情報の種類と対象者を特定します。

アサヒグループの2025年10月3日の発表は、調査の結果「情報漏えいの可能性を示す痕跡」を確認し、内容と範囲は調査中であると明示しました。その後の2026年2月18日の発表では、漏えいの疑いがある情報と、漏えいを確認した情報を区別し、対象者ごとに情報の種類と件数を示しています。これは「初報で不明だったことを後日の調査結果で修正・詳細化する」実例です。自社の記事や通知文では、各発表日時における事実として引用し、現在の確定事実であるかのように古い数字を流用しないでください。

「取引先への業務連絡」と「法令上の報告・本人通知」は別に設計する

注文の受付停止を取引先へ知らせる業務連絡は、納期や代替受付に関する案内です。それ自体で、個人情報保護法に基づく個人情報保護委員会への報告や、影響を受ける本人への通知が終わるわけではありません。受発注が止まっても個人データに影響がない場合もあり、逆に受発注への影響が小さくても報告対象事態に該当する場合があります。二つを一通の曖昧な文面へ押し込まず、業務継続を担当するチームと、個人データの影響調査を担当するチームが、それぞれの要件と宛先を確認します。

個人情報保護委員会の案内とガイドライン通則編では、要配慮個人情報を含む個人データ、財産的被害のおそれがある個人データ、不正目的の行為による個人データ、本人の数が一定規模を超える個人データなどについて、漏えい等またはそのおそれが報告対象となる条件を示しています。対象事態に該当すれば、委員会への報告と、原則として本人への通知の検討が必要です。ただし、該当性は情報の種類、事実関係、対象人数、委託関係などによって変わるため、この記事の文例だけで法的判断を確定させないでください。

実務では、最初に「どのデータベース・端末が影響を受けたか」「そこにどの個人データがあったか」「不正アクセスや持ち出しの痕跡はあるか」「対象人数は最大で何人か」を記録します。個人情報保護委員会のガイドラインは、確証がなくても、現在判明している事実から漏えいが疑われる場合に「おそれ」として扱うことを示しています。したがって、証拠が十分でないからといって無期限に「問題なし」と記載するのではなく、疑いを生んだ根拠と否定できる根拠を分けて評価します。

伝える内容 表現の例 避ける表現
業務停止のみ確認 「受発注システムの停止を確認しました。個人データへの影響は調査中です」 「漏えいはありません」と未調査で断定
漏えいの可能性を示す痕跡を確認 「漏えいの可能性があるため、対象情報と範囲を調査しています」 「漏えいが確定しました」と根拠なく断定
一部の漏えいを確認 「○○の情報について漏えいを確認しました。その他の情報は調査中です」 確認済みの範囲をすべてに広げて説明
対象者・項目が特定済み 「該当する方へ、対象項目と推奨する対応を個別にお知らせします」 対象者によって違う内容を一律に通知

本人に役立つ情報を、確認できた順に示す

個人データの漏えい等について本人通知が必要な場合、個人情報保護委員会のガイドラインは、状況に応じて速やかに、本人の権利利益を保護するために必要な範囲で通知することを求めています。すべての事実が確定するまで待つ必要はありません。通知内容には、事案の概要、対象となる個人データの項目、原因、二次被害のおそれ、本人が取り得る措置などが含まれます。ただし原因が調査中ならその旨を明示し、推測で埋めません。異なる対象者へ異なる情報を伝える必要があるなら、対象グループを分けて送ります。

たとえば、取引先担当者の氏名・電話番号が影響対象で、メールアドレスや決済情報は対象ではないと確認できたなら、その区別を明記します。まだ否定できない情報があるなら「現時点で確認されていない」と「対象外と確定した」は異なります。具体的に取るべき行動は、流出した項目によって変わります。不審な電話への警戒、同じパスワードを使っているサービスの確認、金融機関への相談などを一律に羅列せず、確認できたリスクと対応を結びつけます。パスワードが対象でないのに全員へ変更を求めると、取引先の作業を増やすだけで、必要な対応が埋もれます。

通知先の連絡先自体が攻撃により改ざんされた可能性もあります。メールだけに依存せず、既存の契約連絡先、郵送、公式サイト、電話などを組み合わせ、本人へ届く方法を選びます。ただし公表だけで個別通知の代わりになると一律には言えません。個人情報保護委員会のガイドラインは、本人への通知が困難で、本人の権利利益を保護するために必要な代替措置を講じる場合の例外を定めています。該当するかを個別に判断してください。

通知文の作成前に、社内で五つの線を引く

第一に、対象の線です。顧客、取引先の役員・従業員、自社従業員、その家族では、保有する情報も連絡手段も異なります。同じ「取引先」でも、法人の注文担当と個人事業主では本人通知の要否や伝える内容が変わり得ます。法人に業務連絡を送っただけで、その法人の従業員本人に届いたとみなさないようにします。

第二に、確度の線です。外部への通信痕跡、攻撃者の公開主張、内部ファイルの暗号化、実際の公開情報の確認は、証拠の重みが違います。調査担当が各項目を「確認済み」「疑いあり」「未調査」「否定済み」に分類し、広報はその表現を変えないようにします。攻撃者の主張だけを確認済みと扱わず、逆にその主張を無視して調査対象から外さないことが大切です。

第三に、時間の線です。資料やスクリーンショットが出回っても、発信日時が違えば調査段階も違います。すべての通知に「○月○日○時現在」と入れ、後で事実が変わったら、旧文面を消してなかったことにせず、更新履歴で変更点を示します。誤記が見つかった場合も、訂正箇所、訂正理由、対象者への追加連絡を記録します。

第四に、公開範囲の線です。攻撃経路や脆弱な機器の詳細を早期に公開すると、調査や被害拡大防止に影響することがあります。一般向け発表では、相手が必要な行動を取るための情報を優先します。とはいえ「セキュリティ上言えない」を万能の理由にし、個人データへの影響や次回連絡時期まで隠してはいけません。公開の可否は事故対策本部、技術担当、法務、経営責任者で確認します。

第五に、窓口の線です。業務上の納期相談と、個人データに関する照会は、同じ電話番号でも受付記録と回答権限を分けます。顧客窓口の担当者が未公表の調査結果を電話で話したり、情報漏えいに関する質問を物流担当だけで完結させたりしないよう、エスカレーション基準を紙一枚にまとめます。問い合わせ記録には、誰がいつどの版の説明をしたかを残します。

漏えいの疑いがある場合の短い追補文例

以下は、業務停止のお知らせに追補するための一般的な例です。個人情報保護法に基づく本人通知の完全な代替文ではありません。実際に報告対象となるか、本人に何を通知すべきかは、対象データと事実関係を踏まえた判断が必要です。

【個人データへの影響について・○月○日○時現在】

本件について、[対象システム・端末]への不正アクセスに関し、[現時点で確認された事実]を確認しています。[対象となる可能性がある情報の種類]については漏えいの可能性があり、対象範囲と原因を調査しています。現時点で漏えいを確認した情報は[確認済みの項目/確認されていない旨]です。調査中の事項を、漏えいがないと断定するものではありません。

影響を受ける可能性のある方へのご案内方法、必要な対応、問い合わせ窓口は、確認できた順に[公式サイトのURL/個別連絡手段]でお知らせします。不審な連絡を受けた場合は、当該連絡に記載された番号やURLではなく、従来からご利用の窓口へご確認ください。

次回の情報更新は[○月○日○時]までを予定しています。重要な事実が判明した場合は、予定を待たずにお知らせします。

「確認されていない」と書けるのは、確認作業の対象と手段が明らかな場合です。ログが失われて検証不能なら、その限界を社内で記録し、対外的にも「現在の調査では確認できていない」と慎重に表現します。取引先ごとの影響が異なる場合、公開文は全体像を伝え、個別通知で対象情報・必要な対策を補います。公開ページの問い合わせフォームが停止しているなら、使えない窓口を案内せず、代替手段を動作確認してから掲載します。

法令対応と信頼回復を別々に閉じない

個人情報保護委員会への報告、本人への通知、取引先への業務連絡は、目的も宛先も異なります。しかし事実関係は一つです。三つの文面で発生日、対象データ、調査状況が食い違わないよう、調査台帳の同じ版を参照します。法令上の提出が終わっても、取引先からの注文照会や二次被害の相談が続くなら、窓口を閉じずに対応します。逆に対外的な謝罪文を掲載しただけで、必要な報告・通知まで済んだと考えないでください。

復旧後は「何が起きたか」に加え、「どの機能をどの条件で再開したか」「未解決の影響は何か」「いつ次の説明を出すか」を整理します。アサヒグループの後日の発表では、受注・出荷の段階的な復旧と、個人情報の漏えいに関する調査・通知を別の項目で説明しています。取引先にとっては、供給の再開と自分の情報の安全性の両方が重要です。片方だけを強調せず、それぞれの根拠と残る不確実性を明示することが、実務上の信頼回復につながります。

復旧・再開時の連絡:元どおりと言う前の確認

システム受付再開から注文照合・物流正常化まで段階的に知らせる図

復旧の知らせは、顧客が待っている情報です。しかし「サーバーが動いた」「注文画面へ入れる」という技術上の事実だけで「通常どおりの受注・出荷を再開しました」と告げると、対応できない注文が流れ込みます。復旧連絡は、再開するサービス、対象商品、対象地域、受付方法、納期、既存注文の扱い、問い合わせ窓口を分けて書きます。未確認の項目は、確認予定時刻とともに未確定と示します。アサヒグループの公表でも電子受注の再開と、物流全体の正常化は異なる時点でした。これは個社の時系列であり、他社が同じ期間を要するという意味ではありません。

「再開」の範囲を言葉で定義する

同じ「再開」でも、注文を受けられる、受けた注文を在庫へ引き当てられる、出荷指示を作れる、配送会社へ渡せる、納品完了を確認できる、請求書を発行できる、という段階があります。取引先が知りたいのは画面の復旧状況より、自分の注文がいつどの条件で届くかです。例えば「オンラインでの新規注文受付を再開。ただし一部商品は納期回答を保留」「電話で受けた注文の照合が終わるまでは同じ注文を再送しないでください」といった形で、できることとできないことを対で知らせます。制限が残るなら、復旧したという言葉より、制限の具体性を優先します。

再開対象が一部の顧客や商品に限られる場合は、対象外の人が誤って注文しないよう、本文の先頭で範囲を明記します。取引先ごとに順番が異なるなら、選定の基準と個別連絡の方法を決めます。「主要顧客を優先」とだけ書くと、自社が該当するか判断できません。契約上の供給義務、商品の安全性、在庫確認の確度、配送能力など、現場で確認できる条件を内部の優先順位表にします。公表文では機密契約の詳細まで開示する必要はありませんが、何を待てば次の判断ができるかは伝えます。

停止中の注文を再送させる前に照合する

停止中に顧客が電話、FAX、メールなどから同じ注文を送っていた場合、システム再開後に「念のためもう一度」と入力されることがあります。重複出荷を防ぐため、再開連絡には既存注文の扱いを必ず含めます。受け付けた注文の仮番号があるなら、正式番号との対応方法を示します。仮番号がない場合は、受付時刻、取引先、商品、数量、希望日を安全な窓口で照会できるようにします。確認できない注文を一律に再送させるのではなく、顧客ごとに未処理と処理済みを仕分けてから案内します。

取引先に「二重注文を避けてください」とだけ頼むのは不十分です。自社側も、手作業台帳と復元データを照合し、出荷済み、未登録、重複候補、判断保留に分類する必要があります。顧客が抱える在庫不足の不安から再発注を急ぐときには、こちらの照合にかかる時間と次の更新時刻を伝えます。自社の照合作業が済む前に出荷確約を出さない。急ぎの商品だけ個別に確認する。この順序を営業担当へ周知します。照合と再開の実務はアサヒ事例から学ぶ手作業BCPで詳しく整理しています。

再開連絡の文例:範囲・制限・次回更新を一文書で示す

件名:【復旧状況】受注窓口の一部再開と既存注文の確認について
お取引先各位
当社では、[発生日]に発生したシステム障害について、[確認した範囲]の安全性と動作を確認し、[日時]から[商品・取引先・地域など対象範囲]の新規注文受付を再開しました。
現在も[再開していない業務や制限]が残っています。そのため、[納期の回答方法]で個別にご案内します。停止期間中に[電話・FAX等]でご依頼いただいた注文は当社で照合中です。受付済みの注文を再送される前に、[既知の確認窓口]へ受付番号または注文内容をお問い合わせください。
最新の取扱いは[公式の確認先]に掲載し、次回は[更新予定日時]までにお知らせします。お取引先の皆さまにご不便をおかけし、おわび申し上げます。

この文例は架空の会社向けに作成した汎用例です。実際に送る前に、再開した対象、在庫、配送能力、残るシステム制限を現場責任者が確認してください。「安全性を確認」と書く範囲はIT担当が検証した範囲に限定します。個人情報の漏えい調査を続けている場合は、注文システムの限定再開と、情報面の調査が完了したことを混同しないようにします。電子注文の利用再開と請求・決済の再開が別なら、その違いも明記します。

顧客ごとの未解決事項を残す

公表文を出しても、個別の発注残や納期変更は公表文だけでは解決しません。主要取引先について、注文番号、現在の状態、回答期限、回答担当者、最後に伝えた内容を記録します。「公表済みだから個別連絡は不要」と考えると、取引先の生産や販売予定に必要な情報が届きません。反対に、個別担当者が公表前に独自の復旧予定を伝えると、社内で矛盾が生じます。公表文を共通の事実の土台にし、個別の契約・注文に関する回答だけを担当者が追加する形が安全です。

復旧の連絡は一回で終わりません。再開後にも不具合が見つかれば、対象範囲を一時的に狭めることがあります。発信した説明を取り消す必要が生じたとき、以前の文書を黙って書き換えないでください。更新日、変更した内容、影響を受ける取引先、再送の要否を記録し、旧版を参照した人にも訂正が届く経路を考えます。Webページの上書きだけではメールで通知を受けた顧客の認識は変わりません。重要な変更は同じ経路または追加の連絡で知らせます。

平時に作る連絡体制とテンプレートの運用

平時に準備する対外連絡の担当・承認・テンプレート・訓練の体制図

事故当日に連絡文の空欄を埋めるだけなら簡単に見えます。しかし実際に詰まるのは、誰が障害を認定するか、取引先の連絡先が使えるか、代替窓口が安全か、法務と広報の承認を誰が代行するかです。経済産業省のサイバーセキュリティ経営ガイドラインは、被害の報告・公表への備えと、ステークホルダーとのコミュニケーションを求めています。IPAの実践例も、発生時の優先度に応じた顧客への通知・連絡・公表手順を扱っています。これらは形式だけの危機管理文書を作るためではなく、情報が足りない初日に連絡できるようにするためです。

連絡先一覧は「安全に取り出せるか」で点検する

取引先マスターが停止したシステムにしかないと、連絡すべき相手の情報を取り出せません。あらかじめ、重要取引先の緊急窓口、契約上の通知先、物流委託先、決済・銀行、法務相談先、サイバー事故対応の委託先を、必要最小限の担当者が安全に参照できる形で管理します。紙の控えを持つ場合は、紛失や古さに注意し、施錠保管、版番号、更新責任者、廃棄方法を決めます。独立したクラウドへ複製する場合も、認証と権限、オフラインでの参照可否、感染時に切り離せるかを確認します。

一覧には「相手会社名」だけでなく、役割と連絡手段の優先順位を入れます。たとえば大口顧客の購買部門は納期を知りたいが、情報漏えいの疑いは法務・情報管理窓口にも届ける必要があるかもしれません。契約に通知義務や期限があれば、その条項の場所を一覧に示します。通常担当が不在のときの代替者と、電話がつながらない場合の次の経路も必要です。連絡先が事故当日に更新されたというメールは、なりすましの危険があるため、既知の経路で確認してから変更します。

一枚の「事実台帳」から全チャネルへ発信する

Webサイト、メール、営業電話、SNS、問い合わせ窓口が別々に文章を作ると、発生時刻、影響範囲、復旧予定が食い違います。対策として、発信に使う事実台帳を一つ置きます。欄は、確認した事実、未確認事項、根拠、確認者、確認時刻、更新期限、発信可能な表現です。例えば「電子受注システムが利用不可」は業務責任者とIT担当で確認できる一方、「個人情報が漏えいしていない」は調査が終わるまで確定できません。窓口は台帳にある表現だけを使い、個別注文の事実は注文票と照合してから回答します。

台帳は便利ですが、機密情報を全員へ開くものではありません。攻撃経路の詳細、未通知の個人データ、取引先ごとの契約条件は、閲覧者を限定します。対外向けに使える事実と調査用の内部情報を分けておけば、窓口担当者が必要な説明をしつつ、追加の被害につながる情報を誤送信しにくくなります。発信文の承認履歴も残します。誰がいつ何を承認したか分からないと、後で新しい事実が判明した際に、どの文面を訂正すべきか追えません。

三種類のテンプレートを事前に用意する

準備する文書は、①発覚当日の一次連絡、②停止が続く間の更新、③限定再開・通常化の案内です。一つの長い雛形へすべての可能性を詰め込むと、事故時に不要な段落を消し忘れます。各文書の共通欄は、確認日時、対象、事実、顧客が今取る行動、問い合わせ先、次の更新時刻です。変わる部分は、原因の調査状況、停止業務、手作業の受付条件、個人データに関する確認状況、再開範囲です。使わない欄は空欄のまま送らず、「確認中」として残すか、適切に削除します。

テンプレートには禁止表現も添えます。「絶対に安全です」「必ず明日復旧します」「被害はありません」「この件でお客さまへの影響はありません」といった断定は、確認した範囲を超えるおそれがあります。反対に、すべてを「調査中」だけで済ませても、取引先は行動できません。例えば「当社の電子注文は停止しています」「本日17時時点で配送可否を個別に確認しています」「次回の更新は翌営業日12時を予定します」というように、確認できた事実と次の行動を具体的に分けます。復旧見込みが未定でも、次に何を知らせるかは決められます。

机上訓練では連絡文を本当に完成させる

年に一度、架空の事故で訓練します。「月曜朝、受注システムとメールが停止。昼にはネットワーク隔離が必要。取引先から納期問い合わせが集中」といった状況を設定し、60分以内に一次連絡の案を作ります。訓練では誰か一人が完成した文章を読むだけでなく、業務、IT、広報、法務、経営の担当者が、どの文を事実として承認したかを記録します。承認者が不在という追加条件も入れ、代行者が決められるかを確認します。顧客名や連絡先は架空のものを使い、本物の配信システムへ投入しないでください。

二回目の訓練では「調査により個人データの漏えい可能性が見つかった」「予定していた再開が延期になった」など条件を変えます。最初の発信をどう更新するか、個別通知と一般公表をどう分けるか、問い合わせ窓口に新しいFAQをいつ渡すかを試します。訓練後の採点は文章のうまさより、確認できない事実を断定しなかったか、顧客が次の行動を分かったか、次回更新時刻を守れたか、安全な連絡経路を使えたかで行います。未達なら担当と期限を決め、次回の訓練で再確認します。

小規模事業者の役割分担

専任の広報やCSIRTがなくても、役割は分けられます。代表者が業務停止と発信方針を決め、現場責任者が注文・納期の事実を確認し、IT担当または保守会社がシステム状況を確認し、顧問弁護士等が契約・個人情報の論点を助言し、顧客窓口が承認済みの文面を届けます。一人で複数の役割を兼ねる場合も、「自分が作り、自分だけで事実確認し、自分だけで承認する」状態は避けます。少なくとも取引先への重大な発信は別の人が事実を照合します。

外部の制作会社やシステム保守会社が事故の発生元である場合は、委託元と委託先のどちらが顧客へ何を伝えるか、契約と実際の情報の管理主体を確認します。「委託先の事故だから委託元は何も言わない」「委託元が出したから委託先は記録しない」という両極端を避けます。両者で共通の事実、窓口、次の更新時刻を合わせつつ、法令上の報告・本人通知の要否はそれぞれの役割と事実に基づいて判断します。委託先の権限や連絡先管理は委託先セキュリティの確認表も参考にしてください。

準備するもの 責任者 訓練で確認すること
緊急連絡先 営業・総務 社内メールなしで重要取引先へ届くか
事実台帳 事故対応責任者 確認・未確認・次回更新を区別できるか
三種の文例 広報・顧客窓口 発覚・継続・再開の文を作れるか
承認・代行者 経営者 本人不在でも期限内に決められるか
個人データ対応 法務・情報管理 報告と本人通知の判断経路があるか

よくある質問:原因が分からないのに連絡してよいですか

原因を推測して告げる必要はありません。ただし、注文を受けられない、配送できない、問い合わせ窓口が変わるなど、取引先の業務へ直接影響する確認済みの事実は伝えられます。「原因は調査中」と明記し、今できる受付方法、連絡先、次の更新時刻を示してください。契約上の通知期限がある場合はその条件を確認します。原因の調査が終わるまで取引先への影響を黙っておくと、相手の在庫や営業計画の調整が遅れます。一方で、未確認の攻撃手口を断定すると訂正の負担が増えます。

よくある質問:全員へ同じメールを送ればよいですか

全体向けの共通文は必要ですが、それだけでは足りません。大口取引先、停止による安全上の影響が大きい顧客、個人データの通知対象、特定の注文が遅れる相手では必要な情報が違います。共通文で同じ事実を伝え、個別の契約・注文に関する内容は安全に確認した窓口から追加で知らせます。逆に個別営業担当が別々の復旧見込みを約束しないよう、共通の事実台帳と承認済みFAQを使います。配信先リストを私物のアドレス帳へ複製しないでください。

よくある質問:SNSで先に投稿してもよいですか

SNSは早く広がりますが、重要取引先への契約上の通知や個人データの本人通知を自動的に代替するものではありません。まず事実、対象、緊急の行動、公式の詳細ページ、更新時刻を確認し、担当者の承認を得ます。短文にする過程で「一部業務」の一部が消えたり、「確認されていない」が「ない」に変わったりしないように注意します。投稿後に更新する場合は、公式ページの最新版へ誘導し、古い投稿を見た人が訂正にたどり着けるようにします。なりすましアカウントへの注意も必要です。

よくある質問:AIで連絡文を作ってもよいですか

文章の構成や表現を検討する補助には使えます。ただし、公開前の事実確認、契約上の通知判断、個人データの有無、相手に求める行動は人が決めます。顧客の氏名、未公表の事故情報、攻撃経路、認証情報を許可のない外部AIサービスへ入力しないでください。AIの出力にはもっともらしい未確認事項や、過剰な謝罪・補償の約束が入る場合があります。担当者が事実台帳と照合し、法務・広報の承認を得てから使います。AI利用の社内ルールを含めた基本対策は企業のセキュリティ対策30日計画も参照してください。

出典・確認日:2026年10月30日
アサヒグループ:サイバー攻撃によるシステム障害発生について
アサヒグループ:第2報
アサヒグループ:再発防止策とガバナンス体制の強化
IPA:優先度に応じた顧客への通知・連絡・公表手順
個人情報保護委員会:漏えい等の対応と資料
経済産業省:サイバーセキュリティ経営ガイドライン

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この記事を書いた人

WithCode(ウィズコード)は「目指すなら稼げる人材」をビジョンに、累計400名以上のフリーランスを輩出してきた超実践型プログラミングスクールです。150社以上の実案件支援を特徴にWeb制作・Webデザインなどの役立つ情報を現場のノウハウに基づいて発信していきます。

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